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「シルバーレイン」の北野坂かののブログです。 わからない人にはわからない内容です。
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ゴーストタウンのついで。

懐かしい店で懐かしい食事をとりながら会った人は
べつに懐かしくもなんともなかった。

元町。
個人の雑貨屋やセレクトショップが並ぶ界隈、
服屋の二階にひっそりとそのダイニングは店を構えている。


ぼんやりと向かいの無骨なビルをながめる。
ここの山芋ご飯、こんなやったっけ。

「おまえ、東京いったんやっけ?」
隣の席の男が問う。
「いや、鎌倉。」
「どこ。」
「横浜らへん。」
「ふーん…。」

沈黙。

「高校やめたんやろ?なんしよん?」
「やめてへん。転校した。」
カツレツをかじる。
「…そうなん?…なんで?」

「…べつに?」
こじゃれたやさしげな木の椀を手にとる。
「…べつにて。なんかあったんちゃうん?」
男が覗き込んでくる。
うちは味噌汁を飲みこむ。

沈黙。

「…ごっそーさん。」
席を立とうとするうちに、男は声をかける。
「おい!俺まだ食うてへん。」

うちは振り返る。
「礼拝の時間、嫌いやったからとちゃう?」

代金を支払い店を出ようとするうちを、
男は口を開けたまま見ていた。

駅まで歩きながら、
ほんの半年弱の間にすっかり変わった街を見る。
神戸は、まばたきする間にどんどんと変化していく。
まるでひとつの大きな生き物のように。

だが声をかけてくる客引きのホストを無視して突っ切るのは変わらない。
綺麗に左右にわかれて進む人の群れ。
広場でギターを演奏する若者。
ああ、ここは神戸だ。

歩きながら、ふと笑いがこみあげてきた。
フルネームも思い出せない男に心配されてしまった。
若さゆえの大いなる勘違いが見せた幻想だったのだろう。
私もまだまだ子供だから。

さあ、鎌倉へ帰ろう。

礼拝の時間に大口開けて寝とってシスターに怒られたうち。
去り際の男の大口。

帰りの新幹線でまた思い出し笑いをし、
隣の席のサラリーマン風の中年に妙な目で見られた。
ますます笑いがこらえられなくなる。

次にお会いするときにはお互いもっと大人になってましょ、
…うちの神戸。
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