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「シルバーレイン」の北野坂かののブログです。 わからない人にはわからない内容です。
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なぜこの人たちとこんな話をすることになったのか。
シナモンの香りのするチャイティーを手に
背をソファにもたせかかりカーペットの上に座る。


知人の紹介で知り合った、
縁もゆかりもなかった二人の男。

「ようするに『仮想敵』っつーもんが必要なんじゃろ。」

コーヒーを持ちソファに座る男がいう。
普段へらへらと「太陽のように」といわれるほど笑っている男が、
これほどに冷たい目つきをすると、
だれが想像するだろうか。

「ひらたくいえばそうですね。」
普段は艶然と微笑み慇懃無礼な態度を示す中性的な男が、
自分の分のチャイティーをいれながらきっぱりと言い放つ。
「これは宗教なんですよ。『銀誓館』という名の。」

二人の顔をまともに見れず、うちはチャイティーを口に含んだ。
甘い味と濃厚な香りが広がる。

「僕たちだって『普通の人間』にいわせてみれば『異形』です。
 『知的生命体』は自らと似て非なるものを恐れ、
 いつだって滅ぼしあい淘汰しながら進んできた。」
薄暗い照明が彼の浅黒い肌を照らし出す。

「マウは不純物100パーセント。」
皮肉っぽくもう一人の男が笑い、
マウと呼ばれた男も喉を鳴らして笑う。
「信悟君、随分ですね。」

「…でだ、俺らや来訪者みてーな力のある『異形』が集まってみい。
 『普通の人間』は排斥しようとすんぞ。」
「それに対抗しようとして、
 能力者が『普通の人間』を淘汰しようとするかもしれない。
 それに『能力者』同士の潰しあいも発生するでしょうね。」
「じゃけー『銀誓館』が作られたんじゃろ。」

マウがまぶたを閉じ、ふうと長い息を吐く。
「宗教のように。」

彼の国は人種は入り混じり、
『イスラム教徒』というくくりで結束を保っているそうだ。
それだけに、彼の言葉は重い。

「日本は有象無象の宗教もごったの国じゃけーなあ。」
「やおよろずの神に始まり仏教に儒教にキリスト教も
 なにもかもすべて飲み込んでしまいますからね。」
「物がねー国じゃけーな。
 『単一民族』っつー思い込みでなりたっとろー。」
「実際は単一でもなんでもないんですけどね。」
「不純物100パーセント。」
二人はまた喉を鳴らして笑い合う。

模型いじりの作業に戻りながら信悟がいう。
「戦えりゃあなんでもえーっつー猛獣もおるしな。」
「広海さんなんかそうですね。
 戦争になんのために行くかなんてまったくどうでもいいようですよ。
 どれだけ倒すか。いかに押さえつくすか。
 それだけが目的のようですから。」
「じゃけ黙示録なんかがあるんじゃろ。猛獣対策。」
「ぴったりの言葉ですね。」

「ま、俺らなんざシルバーレインと世界結界の問題が解決したら、
 力をカードに封印されて記憶も消えていくんじゃろーよ。」
そういいながら信悟は電車の模型を走らせる。
「ただの『楽しかった高校生活』という記憶だけにね。」
マウがつけくわえる。

うちはそこで口をひらいた。
「…そんなん、うちいやや。」
二人の視線がこちらへ向くのを感じる。

「みんな、命かけてがんばっとるのに、
 体はって一緒にやっとるのに、
 『ただの高校生活』『ただの同窓生』になるのいやや。」
思わず声がふるえる。

初めて見た報告書。
蜘蛛童に無惨に殺された女性たちの記録が脳裏をよぎる。
あの人たちも「ただの交通事故かなにか」で亡くなったことになるんか?

「じゃあ、クーデターでも起こすか?」
「おすすめしませんね。」
二人は冷たく言い放つ。

「でも」

マウが食卓に腰掛けて優しく続ける。

「この先なにがあろうと、
 僕にとって信悟君は親友ですし、
 あなたも友人であり戦友です。
 そのくらいのことは、忘れたりしないでしょう。」

優しい視線に思わずうちはうつむく。

「記憶なんか流動体みてーなもんじゃ。
 俺だってここにくる前の同級生のことなんかほとんど覚えとらん。
 数えるくらいだ。
 その『数えるくらい』に大勢の人間がプラスされる。
 それはええことじゃと思わんか?」

鉄道模型をいじりながら、
俺とおまえもマウもここにくる前はしらんもん同士じゃった…
と信悟は独り言のように付け加えた。

「…魂に刻まれたものは、
 そうやすやすと忘れてしまったりしないものですよ。」

「魂。」
うちはつぶやいた。
「そう、魂。」
マウがいうと、日常と乖離した言葉が、
なぜか信憑性を帯びてくる。

「だいたいな、一度結んでしもーた縁っつーのは、
 切りとーてもなかなか切れんもんじゃ。
 そういうのをなんつーか知っとるか。」
「不純物100パーセント。」
「アホ。」
二人はまたくつくつと喉で笑う。

なぐさめられたのだ。
なんだかとても気恥ずかしい感じがして、
思わず二人をにらみつける。

「この、不純物100パーセントども。」

二人は今度はけらけらと笑う。

切っても切れないもの。
切りたくても切れないもの。
魂に刻み付けられて忘れないもの。

…不純物100パーセント?
有象無象。

なんとなく、
ぐるぐるとかき混ぜ棒でかき混ぜられて、
チョコマーブルみたいになっていく世界を想像した。



#佐藤信悟さんとマウドゥード・ラシードさんをお借りしました。
 ありがとうございます。ばーかばーか。
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