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「シルバーレイン」の北野坂かののブログです。 わからない人にはわからない内容です。
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残暑きびしいなか、
冷蔵庫のような倉庫でソファに座る。


今日はなんの用だ、
と長椅子に寝転んだ主が視線で問いかけてくる。

「大阪みやげ。」
赤い毛筆で商品名が書かれた袋をテーブルに置く。
「賞味期限問題で騒ぎになった食い物を、
 しかも名物でないのに大阪みやげと称して持ってくるか。」
主は不機嫌になったわけでもないが、
ぶつぶつとおまえはみやげもののセンスが悪いだのつぶやいている。

「ほいでさ」
うちが話をつぐ。
「軍資金、だして。」
「いくら?」
「依頼、いってくる。」
しばし黙ったあと、男はそうか、とつぶやいて金庫へ向かい、
金を取り出してきてテーブルに置いた。
「ビビリがキレると面白いことになるな。」
主はにやりと笑う。
「うん、ぷっつんいってもーた。自分でもわかる。」
「だが無茶な依頼にははいるなよ。
 さすがに止めんと、俺にも立場というものがある。」
めずらしく説教くさく饒舌な男に、はいはい、と適当に答える。

しばしの沈黙。

「…ああ、博士に届け物をするが。」
男は部屋の奥へ行き、金属製のケースを運んできた。
「おまえも行くだろ?」
「……ええけど。」
そうか、と倉庫の王は笑う。

『博士』というのは、知人の父親で、
まだ三十路そこそこの男だ。
彼はいつもこう言う。
「僕が狂ったら、君が僕を殺してください。」と。
彼は能力者ではないが、
『常識』の範疇には住んでいない。
いつ狂うかわからないのだという。

はじめ、確かに実の娘に殺させるのは酷だろう、
と思いうなづいたが、
『博士』はただ単に娘が自分を確実に殺せると思っていない、
それだけだと知った。

ならば、うちなら殺せると思うのか…。
…ああ、殺せる。
『博士』の判断は実に正しい。
うちはもう、半年前の自分のかけらも残っていないような心地さえする。
『必要』なら『一般人』ごとき、一突きで殺せるだろう。

『博士』は能力者をこの世に生み出した。
それゆえに危険。
彼が狂気に冒されれば、すぐに殺すべきだ。

男のバイクの後ろで風に吹かれながら、
そんなことを考えていると、
なぜだかあの色黒の慇懃無礼な男が頭をよぎった。
……ああ、今のうちはまるであいつみたいやな。
少し頬がゆるんだ。
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