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「シルバーレイン」の北野坂かののブログです。 わからない人にはわからない内容です。
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※「オトン」が5月から飼い始めた犬、不動のお話です。


朝起きたら不動が不動で不動やなかった。

居間に降りると、不動がケージにも居間にもいなかった。
軽く探してみると、台所の流し台から覗く顔があった。
黒い毛、黒い目、日に焼けた肌の、人の。
なんとなく、「あ、不動。」とつぶやいてしまった。

そのつぶやきを聞き、
青年は飛び出して泣きついてきた。
「おとーーん!」

これは一体どういうことか。
とりあえず、
「おまえ、人間やったんか。」と聞いてみた。
「しらん!」
きっぱりとした答え方は摩耶に似ている気もする。
「うーん。」
「うー…。」

この不動というのは飼えないという知人に貰った犬で、
貰ったときから既に結構大きかったものの、
骨格がよかったので、彼も僕も子犬だと思っていた。
が、あまり大きくならなかったので、
まあこんなもんなのだろうと思っていた。

…少し思い当たることがあった。
摩耶とのやりとりだ。
「人狼」なる存在について軽く聞いたことがある。

そもそも僕が摩耶のような存在を記憶しておけるのは、
元より怪異や超常現象、宇宙人などを信じている人間だったかららしい。
今後忘れていく可能性は不明だが、
今のところそういったわけだそうだ。
亡き妻に出会ったのも倉稲魂神、
つまり稲荷神社について調べていたときのことだった。

「…おまえ、人狼?」
「じんろー?しらん!」
「………ちょっと摩耶に連絡してみるから、待っとりなさい。」
「ねーちゃん!」
僕も背丈は大きいとはいえ、
180センチは超えていそうな巨体に
背中に飛びつかれるのはさすがに腰に響いた。

摩耶の話によれば、
「それたぶん記憶なくしとる人狼の子っぽいし、
 ちょっと治療とかせなあかんかもやからガッコまわしてー。」
とのことだった。
「鎌倉での滞在中の面倒はみる」とのことである。
本人は「ねーちゃんの学校?いく!」とのこと。
摩耶に預けるまで引率すれば済みそうだ。

「…とりあえず、服はオトンのでええか。」
「服?めんどい!いらん!」
不動はすぐに犬の姿に戻ってしまった。

「今度は息子かー。オトンはツイとるなー。」
などとのんきに言っていたが、
はたと気付いた。
この子も『学園』とやらに所属することになるのだろうか?
さびしさもあるが、
摩耶がこちらの大学を受験すると言ってくれたことで
娘二人をほぼ同時に遠くへだしたさびしさはまぎれていた。

「不動、おまえ字ぃ書けるんか。」
不動は目だけでこちらを見る。
「犬のときは話されんのんか。そらそーか。」
渋々不動は人の形に戻り、
渋々服を着せられた。

さてテーブルに向かわせると、
「字かける!」
自慢げに見事に書いてくれた文字は…「なんやこれ、ロシア語か?」
「英語もかける!」
ほうほう。なかなか様になっている。これは助かる。
「日本語は?」
不動の表情は暗くなり、だまりこんでしまった。
「書けへんかー。」
「…でも、よめる…。テレビとばーちゃん!」
なるほど。不動はクイズ番組が大好きで、
平日のものから土日の再放送ものまで、
見せないとひどく不機嫌になっていた。
…ばーちゃんというのは…。
「絵本か?」
「うん!ばーちゃん読んでくれる!」
それでひらがなかたかなと簡単な漢字は読めるようになったらしい。

あごをこする。
「……海外におった子どもと養子縁組、でええかー…。」
腐っても官憲、
だいたいこういったことは案外ゆるくいじれる。
学園側にも少し打診してみればより一層楽だろう。

「海外ー…。…イングランドおった!」
「おお!」
不動の記憶が少しよみがえったらしい。
気持ち良さそうに目を閉じているので尋ねてみたら、
ヨーロッパの森の心地よさをふっと感じたらしい。

…さて、母に気付かれる前に事を済ませてしまわねばならない。
「おまえ何歳や?」
「しらん!」
結構な体格に、喋りよりもおとなびている。
「高1くらいでええか…。」
「高校!ねーちゃん!」
「ねーちゃんやなー。『どっちも』おるぞー。」
「『どっちも!』」
もう完全に不動は期待モードだ。
加納には会わせたことはないが、
不動はそのままにしている部屋にもぐりこんでよく遊んでいた。

駅前のファッション街で適当に一週間分ほどの衣類を見繕って、
みやげの洋菓子に不動の好物などを持ち、新幹線に乗った。

摩耶に「ふーちゃん預かるならもっと広い部屋引っ越してええ?」と聞かれたが、
血のつながっていない男女を一つ屋根に置いてよいものか…。
いや、構わんか。不動やし。

憧れのキャッチボールとかしてみたかったのぅ。くちおしや。
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