進路希望調査票

何度見ても何度見ても白紙。
大学へ進むかどうかすら考えあぐねている。

小学生のときは中学生の自分を、
中学生のときは高校生の自分を夢想したものだが、
大学生の自分というものが想像できない。
抑圧が夢を生むものだと知った。

キャバ嬢？
赤の他人に媚を売るのはめんどくさい。

結婚？
相手がいないこともないがなんか違う。

短大でてOL？
ゴースト倒した方が儲かる。

と、祖母が送ってきたいかなごのくぎ煮を
受験勉強する妹を眺めながら食べとるうち。

「不動、あんた卒業したらなんになる？」
「えっ？…うーん。とーちゃんのひも！」
「ヘンな言い方、どこで覚えたん～！」
マヤから鉛筆が飛んでくる。

「まあ、オトンが死んでも
　あんたはそれでやってけそうやな。」
「オトン死ぬの？」
「そのうちな。」
「かのちゃんはいつまくんのひも？」
「あれの紐ひっぱってなにがでてくるねん。」
「意外と遺産とかあるかもしれへんで～。」
マヤが振り返る。
わりとこういう話は好きらしい。

「統次郎も逆さにふってもでてこんやろうしなぁ。」
「そーかな～。しぶとくはありそ～。」
「だれ！だれ！」
「今度みしたる。でかいで。」
「そして黒い！」
「………。」
「強そうだ！」

背中に張り付いていかなごを要求してくる不動がさけぶ。
「あっ！アリスちゃんにめんどーみてもらおう！」
「ええ～？」
「あー、アリさんかぁ。大金持ちやけど、解体されるで。」
「かいたい？」
「『愛のない解体はサイテーだ！うんたらかんたら』って
　演説しとったな～。リリスらに～。」
「丘と気ぃ合うかもな。」
「か・い・た・い…。」
不動は電子辞書を引いとる。
相当便利らしくすっかりご愛用や。

「…やだ！！」
「そうか。」
「塩屋が愛されたらええんちゃう～。」
茶碗を洗っとった割烹着姿のスカル、塩屋がこちらを見てとまっとる。
「あの子、骨でもいけるんかな？」
「塩屋みてスカルサムライのすばらしさと有用性について熱弁しとったで～。」
「塩屋はだめ！おれがかじる！」
塩屋はそれもダメダメと首を横にふる。
たまにしゃぶられとるのでマヤが心配しとる。
アリさんが修繕できるらしいので万一の場合は連れてくつもりらしい。

「あー、進路調査どないしよう。」
「おれが書いてあげるよ。」
不動がシャーペンでぐりぐりしとる。
ひらがなは覚えたらしい。

第一：さむらい
第二：けんかく
第三：ころしや

「………。」
「………。」
「かっこいい！」
「ふーちゃん、黒澤ハマっとってレンタルビデオで絶対借りるねん…。」
「影響受けやすいんか、こいつ…。」

小津を観ろ！小津を！と弟に拳をふるいながら、
結局明日も提出でけんのやろうなぁとか思う。
萩原52歳が心が広くてワイルドでよかったわぁ。