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「シルバーレイン」の北野坂かののブログです。 わからない人にはわからない内容です。
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筑前煮を炊く。
自分は好きやない。

雨上がりの空はあまりにもニュートラルで、
うちの心を映したスクリーンのようや。
見上げながらずっしりと重い巾着袋を斜めにしないように気をつける。

そこは古びた天文台。
いつもはいるかどうかためらってしまう。
それがテリトリーの境界線やから。
踏み込まない。踏み込めない。
それが獣同士の暗黙の了解であると思う、から。

と、タイミングよくごまがでてくる。
「筑前煮持ってきたったで。」
タッパーをいれた巾着を揺らすと駆け寄ってくる。

「ちくぜんにー。」
「筑前煮やでー。」
「しろごはんすなわち白米は?」
「米くらい自分でなんとかし。」

ぎゃんぎゃんうるさいときは巾着を奪うと静かになる。
また渡し、
「米はあらへんけどポン菓子なら。」
「くれるの?」
「マヤちゃんが大量に買うてきてなあ……食いきれんのよ。」
と、セロファンの包まれたポン菓子を渡す。

受け取ると、ごまはこれまた古びた百葉箱を見やった。
詠唱兵器でもでんの、と冗談をいうと、
でないよと返ってくる。
まあそらそうや。

ごまは色の抜けたパンダの遊具の上に巾着を置き、
ポン菓子をもって百葉箱へ近付いていく。
うちは携帯で検索しながらついていく。

セロファンを噛み千切ってごまは百葉箱を開ける。
「ひゃくようそう、ひゃくようばことは、温度計や湿度計を入れ、
 正確な気温を計測するために設置された屋根付きの箱の事である。」
検索結果を読み上げながら、
湿気で降りてきたまつげを指で押し上げる。

温度計と湿度計はどこ行ったん、
と覗き込むと、
ようさんの鳩が詰まっていて、
ごまがおるもんやから飛び立つこともできず、
ぽるぽると喉を鳴らしていた。

ごまがポン菓子をまくとせっせとついばみ、
羽が飛ぶ。

狭い箱に詰め込まれた飛び立つことのできない鳥たち。
ずきん、と胸が痛む。

「ごまちゃん。」
「なあに。」

肩をたたく。

「あんな、ハトさんかわいそうやろ。もっと広いところで飼ったり。」
諭すようにいうと、
「飼ってるんじゃないよ。」
黒い瞳が空を見上げる。
うちはふっとこの銀色の空はスクリーンやなくて、
破れない膜なのかもしれないと思う。

「はとが七羽いたらつぎには星ができるんだよ。」

うちは理解できず、目をしばたたせる。

「星ができるまでつかまえてるので、ハトのことかわいがったりはしてない。」
そういいながら、ごまは平然と二袋目のポン菓子を与えている。

殺さないということは彼にとって、
鳩はたいした存在ではないのだろう。
星がなんたらはさっぱりわからんが、ため息をつく。

「あんな、そういうん、動物愛護法違反なんやでー。」
「それってつかまる?」
「捕まるな。」
「そっか。」

つかまるのはやだなーといいながら彼は百葉箱から離れた。
それでも外にでた鳩たちはポン菓子を求めて彼にたかる。
うちは思わず笑ってしまい、ごまも笑った。
二人がけらけら笑っているうちに、鳩たちはいなくなってしまった。

彼はまた鳩を捕まえてくるだろうか?
そのときはまた同じ問答が繰り返されるのだろうか。

この男は破綻している。
それでいて、「生きて」いる。
彼がまたおかしなことをするとき、
うちは「死んで」いるのだろうか。
鳩まみれの彼をけらけら笑えるうちでいられるだろうか。

たとえ一瞬でも、一秒でも、
「生きて」いたい。
筑前煮を炊く。

#リハウス、元ネタあざーす\(^o^)/
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