土蜘蛛とうち

とっても、大事な出来事。

マヤちゃんのアパートで一緒に晩ご飯食べて、
それからゆっくりしとったら、
マヤちゃんが神妙な顔で「話がある」言うた。
「戦争が、起きるから」て。

うちが普通に「なに？」て聞いたら、
マヤちゃんは急に泣き出した。

マヤちゃんが一生懸命話してくれたのは、
うちのオカンの話やった。

うちはオカンなんて知らん。
物心ついたときからオトンとマヤちゃんと三人やった。
「オカンとは離婚した」ってオトンはいっつも言うとった。

でもマヤちゃんは、その話はほんまは違うて言うた。

マヤちゃんがまだ蜘蛛童やったときに、
大きくなるためにうちのオカンを食べてもたんやと。
たぶんオカンが能力者やったからそうなったんやと。

マヤちゃんは嗚咽をあげながらそう言って、
ずっと「ごめんなさい、ごめんなさい」言うとった。

…それを聞いて、うちは…。

うちは、あんまりなんとも思わんかった。

うちの本当のオカンには申し訳ないけど、
ほんまに見たことないし知らん人やねん。
うちはずっとずっとマヤちゃんと一緒やってん。

うちはとりあえず泣きじゃくっとるマヤちゃんを抱きしめて、
なんだかぼんやりしとった。

でも、しばらく考えて、
オトンとマヤちゃんは二人ともずっと辛かったやろなと思た。
うちのこのファイアフォックスの力は、
オカンから受け継いだもんやったんやて思うた。

それで、うちはマヤちゃんに言った。
「生きとるうちは負け続けはあらへんて、オトン言うてたやん。」
マヤちゃんは驚いたように顔をあげた。

「オカンを食べてもたのはマヤちゃんは土蜘蛛やねんからしゃーないやん。
　オカンには不幸やったかも知れへんけど、
　うちとオトンにはマヤちゃんて家族ができたやん。

　人間食べるからて殺される蜘蛛童もおるけど、
　学校のみんなはそれを止めるために戦ったりするやん。

　うちはオカンから能力を受け継いだんや。
　マヤちゃんは生き残ったんや。

　だからうちらは戦えばええねん。
　うちアホやからよーわからんけど、
　………世界平和…、のために？」

世界平和、なんか言うたうちがうさんくさくて、うちは自分で吹き出してもた。
そしたらマヤちゃんも吹き出した。

うちは、
シルバーレインが降る理由も、世界結界のことも、
なんもかんもよくわからんまま、
「能力があるから」て理由だけで学園にはいってこの一ヶ月毎日毎日戦っとった。
でも、なんとなく「意味」みたいなもんを見つけた気がする。

マヤちゃんは疲れたみたいで寝てもうた。
うちはこの大事なことを日記につけとく。